
糖尿病患者さんが一番困るのは、『食事』ですよね。
特に、食事ごとにインスリンを打っている人はちょっとした食事の違いで血糖値が乱れやすくなります。でも、『上手に血糖値を下げて、糖尿病をコントロールする方法』があれば試してみたくありませんか?
実は、“炭水化物”の量に注目することが、血糖値を上手にコントロールする秘訣です。
悩める糖尿病患者さんにお勧めしたいのは、食べる食材に含まれる “炭水化物量” に注目する方法『カーボカウント』です。
この記事では、『炭水化物に注目する理由』、『カーボカウントとは何か?』、『カーボカウントを使って血糖値を下げる方法』を詳しく解説します。
- 目次 -
1.炭水化物(糖質)に注目する理由は?

“炭水化物(糖質)”は血糖値と密接に関係しています。
そこで、食べる食材に含まれる “炭水化物(糖質)量”に注目して、インスリンの単位数を決めるのが『カーボカウント』です。
カーボカウントを使うと、難しかった血糖コントロールが上手くいくケースがたくさんあるんです。ただその前に、カロリーと炭水化物を一旦切り離して考えることも必要です。
1-1.『高カロリー』=『高血糖』ではない!

糖尿病の治療では、“カロリー”について注目されることが多いですよね。糖尿病治療にはカロリー制限(と言うか、暴飲暴食しない)も大事です。それは間違いありません。
カロリーの摂り過ぎは、当たり前ですけど太ります。
そして、『太る → インスリンが効きにくい体になる → 血糖コントロール悪化 → 注射するインスリン量が増える(薬が増える) → さらに太る』という悪循環になるので、糖尿病治療において太ることは良くありません。

しかし、はっきり言って“カロリー”を意識しても、上手な血糖コントロールは無理です。
なぜなら、同じカロリーの食べ物でも、食材によって全く血糖値の上がり方が違うからです。
例えば、高カロリーの代表格の『ステーキ 300kcaL』と、同じく300kcaLの『白米』を食べたら、どちらが “一気に血糖値を上げる” と思いますか?
答えは、『白米』です。
と、言われてもイメージしづらいと思うので、『炭水化物(糖質)・タンパク質・脂質を食べると、血糖値がどのようにあがるか?』というグラフを書いてみました。

縦軸が血糖値、横軸が食材を食べて経過した時間です。このグラフを見ると、『炭水化物(糖質)が血糖値を一気に上げる』ということが一目瞭然ですよね。
では、炭水化物、タンパク質、脂質のカロリー(kcaL)を比べてみましょう。
- 炭水化物:1g→4kcaL
- タンパク質:1g→4kcaL
- 脂質:1g→9kcaL
同じ量なら、脂質が一番高カロリーですね。でも、先ほどのグラフから血糖を上昇させる作用は一番脂質が緩やかで、炭水化物の高血糖状態を引き伸ばす食材だということがわかります。
『高カロリー』=『高血糖』ではないのです。
だから、
『炭水化物(糖質)を食べることで急激に高血糖になる』という考え方を身につけることが大切なんです。
ちなみに、炭水化物は糖質と食物繊維の組み合わせたものですが、この記事では主食の炭水化物を中心に扱うので、『炭水化物=糖質』と考えて、カーボカウントの話をしていきます。
1-2.糖質1gでどれくらい血糖値が上がる?

炭水化物(糖質)は一番小さく分解された状態を『ブドウ糖』といいます。ブドウ糖1gで、どれくらい血糖値が上がるか知っていますか?
実は、ある程度予測できます。
個人差があるのであくまで目安ですけど、
- 1型糖尿病の人・・・ブドウ糖1g → 血糖値『5 mg/dL』
- 2型糖尿病の人・・・ブドウ糖1g → 血糖値『2.5 mg/dL』
ぐらい上昇します。
例えば、ジュースをコップ1杯(糖質20g)飲んだとすると、1型糖尿病の人は血糖値が100mg/dL上がって、2型糖尿病の人は50mg/dLぐらい血糖値が上がることになります。
こういう予測が自分で立てられるかどうかは、治療上すごく重要だと思っています。
2.カーボカウントとは?
2-1.カーボカウントの超基本

カーボカウントの「カーボって何ぞや?」って思いません?
カーボとは、炭水化物の“Carbo(カーボ)”からきています。
そして、カーボカウントでは炭水化物の量を計算する必要があるんですが、数値が大きくなったりして計算が煩わしくなることがあります。
そこで、
「炭水化物10g=1カーボ、と置き換えて計算していきましょう」
というルールがありますので覚えておきましょう。ただそれだけです。計算しやすくするだけ。
2-2.カーボカウントの手順 ~炭水化物量(カーボ)に合わせてインスリン量を決める方法~

やや前置きが長くなりましたが、カーボカウントとは、“炭水化物(糖質)量”に応じて、インスリンの単位数を決めるのが『カーボカウント』でしたね。
『カーボカウントは何か難しそう・・・』とか『特別な計算をするんでしょう?』などのイメージもあるかもしれませんが、実際は超簡単です。
以下にカーボカウントの手順をまとめました。
カーボカウントは、足し算、引き算、掛け算、割り算ができる人なら誰でもできます!(小学校低学年でも電卓使えばできます。笑) 実際にカーボカウントを使うために必要なことは、たった2つの考え方を覚えるだけです。 インスリン/カーボ比とは、『1カーボあたりに必要なインスリン量』のことです。 そう言うと大体、「で、どうやってインスリン/カーボ比をだしたらいいんよ?」っていわれます。そう、そこが大事。やり方覚えたら簡単です。 例えば、あなたが牛丼(炭水化物96g→9.6カーボ)を食べて、8単位のインスリンを打ったとしましょう。 そして、食後3~4時間後(完全にインスリンの作用が消えたぐらいの時間)に血糖値を測ると115mg/dLだったとすると、どうでしょうか? 以上より、『9.6カーボの食事には、8単位のインスリンでちょうど良かった。』と言えますね。 つまり、 【インスリン/カーボ比(ICR)= 8 ÷ 9.6 =0.833…】 と計算できるので、この人のインスリン/カーボ比は、約0.83とわかります。(言い換えると、1カーボあたり0.83単位のインスリンが必要) そして、食事に必要なインスリン量を計算するには、 【食事に必要なインスリン量=(カーボ) ✕ (インスリン/カーボ比)】 で計算できます。 このようにインスリン/カーボ比は、食前と食後で大体同じ血糖値だったときに算出することができます。ちなみに、インスリン/カーボ比は朝、昼、夜で数値が違う場合が多いので、すべての時間帯で計算しましょう。 Point ~インスリン/カーボ比(ICR)~ インスリン効果値とは、『1単位のインスリンで血糖値がどれだけ下がるか』ということです。 実はこれも簡単に調べることが出来ます。血糖値が高いときにインスリンを打ってみたらいいんです。 必ず、空腹時血糖値(食事のインスリンの効果が切れているとき)の血糖値が高いときに行いましょう。 例えば、 とすると、『インスリン2単位で、血糖値が114mg/dL下がった』と言えますね。 つまり、 【インスリン効果値=105 ÷ 2 = 57】 と計算できるので、インスリン効果値は『57』といえます。(インスリン1単位で血糖値が57mg/dL下がる) ちなみに、人によってインスリン効果値は40~100ぐらい幅があります。 初めて追加でインスリンを打ってみるときは、過度な低血糖を引き起こすなどの事故を防止するため、インスリン効果値が100ぐらいあるものと想定してインスリン量を少なめに打ちましょう。 Point ~インスリン効果値(ISF)~ カーボカウントの基本の2つはマスターできたと思います。でも、やっぱり実践してできるか不安ですよね。 例題でさらに知識を定着させましょう!(なんか、問題集みたいですが笑) あなたのインスリン/カーボ比は0.7です。インスリン効果値は50です。 食前の血糖値が162でした。 オムライス(炭水化物105g)を食べて、食後3~4時間後に血糖値が110mg/dLになるには、何単位のインスリンを打ったらいいでしょうか? 答えは、約8.35単位となります。 ペン型で注射する場合は、8~9単位といったところですね。 カーボカウントでは、『あなたの使っている基礎インスリン(持効型インスリン)の単位が多すぎたり、少なすぎたりしていない』という前提のもとで、食事用のインスリンを決定します。 つまり、持効型インスリン(ランタス、トレシーバ、グラルギンなど)の量が上手く合っていない人はカーボカウントも上手くできません。主治医に相談しましょう。 持型インスリンがずれていないかセルフチェックするには、起床時の血糖値と寝る前の血糖値の比較をしてみて下さい。また、暁現象やソモジー効果(詳しくはググってね)が起きてないことを確認します。 と考えられます。(あくまで参考です、勝手に減らしたり増やしたりしないように!) 様々な研究結果が報告されていますが、2型糖尿病の方にも『炭水化物の量を計算して治療すると、単純にカロリーを制限するより効果的であった』という結果がでているようです。 これは是非カーボカウントして、必要以上に炭水化物を取らない治療も取り入れると良いと思います! 炭水化物抜きダイエットにもカーボカウントの考え方は使えると思います。 なぜなら、『炭水化物をどれだけ食べるか』ということを意識するのがカーボカウントなので、言い換えると、インスリンを打たない人でも炭水化物量を調節しやすいためエネルギーの摂取量コントロールがうまくいきやすいからです。 でも、過度な炭水化物制限は、絶対ダメです! 体が飢餓状態になって脂肪や筋肉からエネルギーを得ようとし過ぎるあまり、体にケトン体というあまり良くない物質が蓄積します。 ケトン体がたまりすぎると、ケトアシドーシスといって急激な体調悪化を招くことがあるので注意しましょう。 最低でも、1食あたり20g程度の炭水化物は摂るべきだと思います。 気合い入れて書いたので、結構なボリュームになってしまいました。汗 最後まで読んで下さった方、ありがとうございます。 カーボカウントって聞きなれない言葉ですけど、使いこなせたらすごく良いテクニックなんですよね。世の中に広く浸透していくと良いな~と、日々感じています。 もし、糖尿病の治療に行き詰まっている人がいれば参考にしてみてください! 【当サイトに記載しているカーボカウントについて】 1型糖尿病などのインスリン使用者にとって、必要インスリン量に見合った炭水化物量をとることは低血糖を予防するためにとても重要です。また、適度な炭水化物量の調節はダイエット効果をもたらしてくれますが、過度な糖質制限(全く炭水化物を摂らないなど)は、逆に健康への悪影響が懸念されます。当サイトのカーボカウントを実践して生じた損害等に関して、管理人は一切の責任を負いません。ご自身の責任で活用して下さい。主治医および専門家の指導の元、カーボカウントを活用していただけたら幸いです。
3.たった2つのことでカーボカウントはマスターできる!
3-1.インスリン/カーボ比(Insulin/Carbo Ratio:ICR)
● インスリン/カーボ比の計算方法
3-2.インスリン効果値(Insulin Sensitivity Factor:ISF)
4.カーボカウント使って計算してみよう!
例題)オムライスを食べてみる
<例題>
<回答>
注意点)カーボカウントを正しく使うために
<基礎(持効型)インスリンが大きくズレていないことが大前提>
5.カーボカウントは2型糖尿病の血糖値も改善する?
『2型糖尿病にも有効という研究結果あり』
6.炭水化物抜きダイエットにも使える?
『使えるけど、炭水化物の制限し過ぎはダメ!』
7.まとめ
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